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世界は、かつてない「リスクの時代」を迎えています。グローバル化した経済活動を背景に、この数年、地政学リスクや感染症の拡大リスクなどは企業活動、そして日常生活で極めて身近な存在になっています。その多くに共通するのは、いずれも直前まで多くの人々が予測していなかったということです。
しかし、将来起こり得るリスクを評価し、あらかじめ対策を練って被害を最小限に食い止めることは可能です。新規事業の立ち上げでリスクを考慮し「プランB」を練るプロセスはもちろん、リスク自体が新たなビジネスの好機になり得ます。リスクは、すなわち大きな社会課題でもあるからです。
「リスクシナリオ2032 全産業編」では、今後10年で影響が高まる6分野30テーマの主要リスクを選び出し、これから起こり得るシナリオを提示します。リスクによる被害想定の定量評価や未来シナリオで具体的な対策に生かす、リスクマネジメントの決定版レポートです。
IT(情報技術)化や脱炭素の潮流などを背景に進む社会インフラ利用の高度化は、効率化を高めるメリットと同時に大きなリスクの火種になる。サイバー攻撃によるデータ喪失やシステム破壊のリスクは増している。新たな電力需要の急増や自然災害で電力システムの需給バランスがひと度崩れれば、一気にブラックアウト(広域停電)が起きる可能性がある。社会インフラのネットワーク化は、システムの破綻をきっかけに広がる被害の範囲をかつてないほど巨大なものにしている。
日進月歩のテクノロジーの進化に乗り遅れれば、新たなビジネスの機会を逃す。そればかりか、事業を継続できなくなるリスクが生じる。米国のGAFAをはじめとするメガプラットフォーマーの業容拡大は、様々な分野の既存小売業の衰退につながる。AI(人工知能)やロボットの導入によって、ビジネスパーソンの雇用環境、コミュニケーション手法は大きく変化する。量子コンピューターやAIといった新技術の本質を読み解き、手中にしていくことが競争力を確保するカギとなる。
持続可能性への要求の高まりや労働人口の減少、テレワークの恒常化、世代間の分断といった社会の変容は、企業活動に思いもよらないリスクとなって押し寄せる。例えば、サステナブルな調達に関する情報の収集や開示の負荷増大。SDGs対応を怠れば、企業価値を毀損する。現場労働力の不足は国内だけの課題ではなくなり、格差拡大は犯罪の増加につながる。電気自動車の導入は、社有車の大きな管理コスト増となる可能性を秘める。社会の変容がもたらす幅広いリスクを捉える術の重要性が増す。
政治・経済のグローバル化は、これからの10年でこれまで以上に大きなリスクを企業にもたらす。近年相次いでいるパンデミックや地政学リスクの拡大は、このことを多くの場面で認識させた。素材や部品の調達をはじめとするサプライチェーンにおける一極集中や、紛争によって増す企業活動の継続困難。脱炭素の世界的潮流は戦略資源の調達の見直しを迫る。インターネットで世界を流れるデータも同様だ。欧州を中心とするデータ関連規制は制裁金負担や管理コストの増大をもたらす。企業だけでは制御できないリスクに、いかに挑むかが問われる。
地球温暖化の進行に伴い、今後10年で気候変動によって事業継続が困難になるリスクはますます高まる。自然災害の激甚化はもちろん、大手企業が取引先への再エネ電力の導入を求める動き、気候変動がもたらすリスクの情報開示など様々な分野に影響は広がる。例えば、不動産の資産価値低下もその一つだ。気候変動によるリスクは、地政学や感染症、サイバー攻撃など異なる分野のリスクと複合的に結合する可能性が高い。再生可能エネルギーは無尽蔵ではなく、企業による争奪戦が本格化する。気候にとどまらない多面的な視点による影響の分析が重要だ。
リスクは内部に潜む。古くて新しい戒めだが、今後はさらに影響が広がる。海外子会社のトラブルやシステム管理者の不正による情報漏洩に加え、ITシステムでは過去の選択の誤りによる技術的負債の蓄積を指摘する声も多い。ベテラン技術者の退職が重なれば、そのリスクはさらに増大する。不祥事が生じた際のソーシャルメディアへの対応も企業イメージを大きく左右する。一方で、過度なリスク回避が不確実性の高い新規事業への挑戦意欲を低下させている。これも企業内部のリスクだ。守りと攻めの両面で絶妙なバランスを取るかじ取りが肝要となる。
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